応募作品選者の評 - 短歌の部
あーちゃんは一本の木よばーちゃんはいつかは枝を離れる葉っぱ
氷上高校 足立 瑞穂
(八年間作品に接してくればどなたの作であるかはおおよそ察しがつく)。
お孫さんのことを詠んだものであることは一目瞭然である。軽い詠みぶりながら、後半七・七音「いつかは枝を離れる葉っぱ」で、軽いペ−ソスが漂うどころか、人間の生死の繰り返し、しかも己れ個人は世を去っても、生命そのものは存続していくという生命科学的真理を、さり気なくイメ−ジ化している点が見事と思う。
偶然の産物かもしれないが、(芭蕉の「舌頭に千転せよ」を考えれば偶然ではあるまい)「あ−ちゃん」「ば−ちゃん」「離れる」「葉っぱ」という具合にa音で、一種の頭韻を踏んでいるところに、飄々とした調子をなしている一因があるかもしれない。(見目)
ガラス瓶におしろい花の実をためて秘め事ためて夏から秋へ
氷上高校 足立 瑞穂
一昔前の少女なら必ず一度や二度はやったことのある遊びである。とくに意味はない のだが、あの黒い実をためることそのものに言い知れぬ楽しさがあるのだろう。
この一首、もちろん〔大人〕でなければ詠めぬもので、おしろい花の実を「秘め事」に重ねて飛躍させたところがミソである。「夏から秋へ」とさり気なく季節の移ろいを付け加えていいおさめたところもうまく(おしろい花はちょうど夏と秋のはざまの頃に実をつける)、上品なペ−ソスの漂う一首に仕上がっている。(見目)
郵便に電話にメ−ル誰からも検索されず金魚の一日
氷上高校 足立
瑞穂 今日、郵便も電話もメ−ルも届かなかった。どこか物足りなさはあるものの、ほっとする。誰にも煩わされぬ一日。「個」の解放。「検索」という語が、はまっている。だが、それも「金魚の一日」。たかだか金魚鉢の中の自由。拘束された自由。作者の溜息が聞こえてくるようである。(林田)
暗唱すHARUWAAKEBONO十七歳異国の言葉唱えるように
氷上高校 足立 瑞穂
意味が少々わからなくても、そのリズム、口調音の組み合わせを身につけさせたいと古典の授業では冒頭の一節の暗唱を強いるのだが、そしてそれは、きっと長い人生のどこかで、強要されたことをよかったと思うにちがいないと確信して、教師は今日も生徒に立って暗唱することを求めている。
「春はあけぼの、やうやうしろくなりゆく山ぎは…」「いづれのおほんときにか女御更衣あまたさぶらひたまひける中に…」「あづまぢの道のはてよりもなほおくつ方に生ひいでたる人…」「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり…」 その昔、「じんむすいぜいあんねいいとくこうしょうこうあんこうれいこうげんかいか・・・」と歴代天皇の名を暗唱させられたのと違って、古典の暗唱は意味あることと思い込むのは教師ばかりか。HARUWAとロ−マ字書きをしたところに教師の苦悩がうかがえるが、朝日新聞に載った田辺聖子の平家「木曽殿の最期」、これは乳母子の今井四郎と義仲が大阪弁でやりとりし、「武将らしく死んなはれ」と今井に言われ、その気になった義仲が無念にも深田にはまりこんで、温田の次郎の郎等に首をとられる悲劇の場面だが、ここを学んだ高校三年の学究の徒が、「初めて古典を学んだけれど、面白かったわ」とつぶやいたのを耳にした丸暗記は古典ばなれをますます加速する、なんて言われる度に身をちぢめながら、やうやうしろくなりゆく山ぎはの頃になると、毎朝犬が散歩の催促に足をかぶりに来ますよ−とさらさら暗唱をやめる気はないのである。(糟谷)
生徒手書きのエリュア−ル「自由」の詩入口飾りおり平和絵本展
青陽東養護学校 北林 稔
平板で、文字を並べただけという印象が強い。それに、全き短歌的韻律の無視。七五五九八。しかし、敢えて選ぶ。背景を知れば、この短歌が生きるからである。アンドレ・ブルトン。ルイ・アラゴン。ピカソの「ゲルニカ」。そして、「愛と反逆の詩人」ポ−ル・エリュア−ルの長詩「自由」。生徒が果してどこまで手書きしたか。ともあれ、この暗膽たる時代に、この種の短歌を消してはならないのである。(林田)
テント村黒柳徹子にアフガンの子ら答えており「先生になりたい」
青陽東養護学校 北林 稔
ネパ−ルの貧しい子供達に教育をとささやかな支援をしてきたが、こんなに女性と子供達がしいたげられているアフガンという国があったとは、今回の事件で初めて知った。多様な価値観を認めるところから民主主義は出発すると口では唱えながら、タリバンの女性に対する考えに妥協はできぬと、これは思い上がりか。しかしどう考えても戦争に誤りはつきものと、無辜の人々の死もやむを得ぬとは絶対に思わない。健気に「先生になりたい」と明日をきり開く思いをした少年少女に対して、私達に、何が出来るだろうか。アフガンには秘密の学校があって、夜ロ−ソクの灯りのもとでこつこつ学習が行われている。そこには希望のあかりが感じられると、私の知り合いは思いを詩につづり、曲にしてCDで唄ってもらって五十万円利益をあげてそれをそっくり送りたいと活動している。黒柳徹子に感動したら、今度は自分の番だ。肩肘張らずに出来ることをしたらいい。それにしても、教育こそが明日の発展を約束する原動力とつくづく思う。(糟谷)
→次に続く
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