新聞報道などによれば、、大学入試センター試験の問題作成者を公開することを、文部科学省・入試センターが「決定」とされたと伝えられています。
その背景には、現在の歴史教科書を「自虐史観」などと攻撃し、過去の日本のアジア諸国にたいする侵略戦争を美化しようとする「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」)の攻撃とそれに同調した自民党議員の圧力があります。この出来事は、センター入試制度の根幹に関わり、かつ「学問の自由」をも揺るがせる重要な問題です。
以下、東京大学史料編纂所教員有志の声明にもとづきながら、問題点を明らかにしていきます。
日本の過去の侵略戦争の事実を隠そうとする「つくる会」の策動
1月17日に実施された大学入試センター試験の「世界史」(A・B共通問題)で朝鮮人の「強制連行」が正解選択肢であったことをめぐって、1月23日に「つくる会」が、文部科学省に対して、「強制連行」の設問を採点から除外するよう求める要望書を提出したとのことです。
「つくる会」などは、戦時下に行われたのは「国民徴用令」に基づく合法的な徴用であり、強制連行は無かったと主張しています。しかしそれは、当時の歴史状況や学界の研究蓄積を無視した議論であると言わなければなりません。国民徴用令は、通常のやり方では労働者が集まらないので、国民を強制的に徴発することができるという勅令であり、また徴用令の存在が、実際に強制連行が存在しなかったことと同義でないことも明らかです。割り当てられた人数を確保するために朝鮮半島や中国で行われたことや、鉱山等における労働実態については、これまでの研究が明らかにしたように、日本政府による強制連行であり、過酷な労働によって死に至らしめたことも多かったことは紛れもない事実です。兵庫県においても神戸港をはじめとして多くの地域でその事実が明らかにされています。
歴史教育をはじめとした学校教育においては、こうした事実を正面からとらえ、過去の誤った歴史を繰り返さないようにしていくことこそが求められています。これを覆い隠そうとする「つくる会」の今回の動きは、日本の自衛隊のイラク派兵が始まった時期に行われおり、過去の教訓から目を覆い、戦争を美化して描こうとする彼等の意図が露骨にあらわれたものです。
文科省が問題作成者公表の方針を決定
「新しい歴史教科書を作る会」のホームページによれば、自民党の「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」が、2月13日と26日の「総会」に文科省高等教育局の学生課長と大学入試センター副所長を呼んで「問題作成者名を公開せよ」と迫り、文科省側が公開を「確約」したと言われています。そして文部科学省は、2月26日に大学入試センター試験の問題作成者について、今後(新規に委嘱される委員が関与する問題が役割を終える2007年以降)氏名を公表する方針を決めたと報道されました。
政治的圧力による学問の自由圧殺
このことが事実であれば、次のような問題があります。
第1に、出題内容上の疑義があれば、入試センターの問合せ窓口を通して行うのが本来のルールであり、問題作成者の氏名公表を求めることは議論のすり替えです。入学試験問題という特性上、問題作成者名の公開やその手法については、機密性や中立性・公正性の保持などの観点から慎重に検討されるべきです。
第2に、「議員有志」でしかない「若手議員の会」が、文科省・入試センターの関係者に「確約」を要求するというのも、政権政党の議員であることを利用した圧力もしくは恫喝だと言わなければなりません。客観的事実が重視される歴史の分野では、外部圧力によって出題内容が左右されることは許されません。今回の文科省・センターの「約束」が事実であるとすれば、こうした問題点を考慮しないままに、一部政治集団の圧力に屈する形になります。
今回のような政治的圧力が存在する状況下で問題作成者名を公表するならば、出題内容に対する中立性・公平性を本当に保つことができなくなります。文科省や入試センターが、そうした検討を欠いたまま「方針転換」を決めたとすれば、教育や入試に関する行政の任にある者として、自ら責任を放棄するに等しい無責任な対応・行動であると言わざるを得ません。
第3に、今回のような形で問題作成者名が公開されることになれば、問題作成者個人に対してさまざまな攻撃がかかる恐れがあります。その場合、入試センター試験の質にも影響が及びかねませんし、戦前・戦中において国家が研究・教育に対して過度に干渉した事への反省から生まれ、憲法や教育基本法に盛り込まれた「学問の自由」の破壊にもつながります。
歴史の真実をゆがめる氏名公表決定の撤回を
こうした動きは、自衛隊のイラク派兵に典型的にしめされている「戦争できる国づくり」の一環であることは明らかです。私たちはこのような暴挙を許さず、文科省・大学入試センターに対して、政治的圧力に屈した問題作成者の氏名公表の方針の撤回を要求するものです。
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