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長期休業中の研修に関する「文部科学省通知」のねらいと背景について(学習資料)

2002年07月14日


文部科学省は、辰野初等中等教育企画課長名で「夏期休業期間等における公立学校の教職員の勤務管理につて(通知)」(7月4日付)を各都道府県教育委員会に出しました。

同通知は、長期休業中に実施すべき研修内容を具体的に指示するとともに文部科学省自らその実施状況を点検することを明らかにしています。同時に、教特法第20条2項に基づく研修を校長の専決事項と位置づけ事実上、教職員の研修権を否定するなどきわめて乱暴で常軌を逸した内容となっています。文科省がなぜこの時期、このような通知を出したのか、その狙いと背景を明らかにしたいと思います。

1.憲法・教育基本法と完全に相容れなくなった小泉内閣と文科省行政

池田首相以来、歴代首相は「現内閣では憲法を変えない」ことを就任時に明らかにすることを慣例としてきました。ところが、小泉首相は、この慣例を破り「憲法を変える」ことを公言し登場したのです。その後の小泉内閣による一連の医療・福祉・教育の切り捨て政策は、日本国憲法の基本的人権を定めた諸条項を真っ向から否定するものです。また、テロ特措法、そして、国会で審議されている有事立法は、憲法の平和理念や第9条と絶対に相容れないものです。このように小泉内閣の諸政策は、もはや憲法の「解釈の変更」ではごまかしきれない、すなわち、明文改憲するしかないほど国民の利益に反するものとなっています。以上のように、小泉内閣は、日本国憲法の理念を否定する立場、すなわち、人類進歩の歴史の流れからはずれ、歴史の歯車を逆にまわす存在となっているのです。

憲法を否定する小泉内閣が、教育基本法の改悪に並々ならない決意で取り組んでいることは、内閣の性格からすれば当然のことといえます。むしろ、教育基本法を改悪することによって、戦前のように学校教育を利用し戦争への動員も含め反国民的な諸政策への国民の積極的な支持を取りつけようとしているといえます。文科省の諸政策をみる場合、小泉内閣の性格とその下で文科省のはたしている役割をしっかり見ておくことが大切です。

2.研修は、教育基本法、教育公務員特例法にどのように位置づけているか

では、教育基本法や教育公務員特例法に研修はどのように位置づけられているのでしょうか。

教育基本法第6条は「法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であって、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない。このためには、教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が期されなければならない」と定めています。次に、第10条は「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接責任を負って行われ」なければならず、そのために、教育行政には「必要な教育条件整備の確立」が義務づけられています。

教育基本法を受け、教育公務員特例法第19条は、「1.教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない。2.教育公務員の任命権者は、教育公務員の研修について、それに要する施設、研修を奨励するための方途その他の研修に関する計画を樹立し、その実施に努めなければならない」と定めています。次に20条2項では「1.教育公務員には、研修を受ける機会が与えられなければならない。2.教員は、授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れ研修を行うことができる」としています。

以上のように、教育基本法及び教育公務員特例法は、教員の研修が「自己の使命を自覚し、その職責」を遂行するために不可欠であるとし、教育行政には、研修のための条件整備に努めることを強く求めているのです。特に、教育公務員特例法第20条2項が、教育行政及び本属長に教員に研修の機会を与えることを義務づけている点が重要です。研修に関する権利と義務の関係は同法の文面からはもとより、制定時(1948年12月)の辻田政府委員による「それ(研修)は単に教育に従事しておる者の義務としてのみでなく、権利としても研修をなし得るような機会を持たなければなりませんので、従来単に自発的に行っておりましたが、これを法の根拠の下に行うことができるようにいたしましたのでございます」との国会答弁からも疑問の余地はありません。

以上のことから明らかなように今問題となっている「勤務場所を離れての研修」については、教育委員会及び校長には教員に対して積極的に権利を行使するよう奨励し、そのための条件整備を行うことが義務づけられているのです。よって、「本属長の承認を受けて」とは、明らかな違法性がある場合などを除いては、本属長が承認を拒否できないことも明瞭です。そして、承認手続き等も簡素で教員が権利行使しやすいものにしなければならないこともいうまでもありません。

3.教育基本法、教育公務員法に基づく研修権を完全否定する文科省通知とその背景

辰野初等中等企画課長名の「夏期休業期間等における公立学校の教育職員の勤務管理について(通知)」(7月4日付)は、教育基本法、教育公務員特例法で定められた教員の研修権を完全に否定することを目的に出されたものです。しかも、教育基本法や教育公務員特例法に基づく研修のあり方については一言もふれず、研修を「勤務管理」の対象に矮小化することによって研修権を否定するという詐欺的な手法を用いています。しかも、各都道府県教育委員会の取り組み状況を文科省として点検するという「脅迫」つきの悪質きわまりないものです。

文科省通知は、前文において、「まとめ取り方式」が廃止されたことをふまえ教育職員の勤務状況について「地域住民や保護者等の疑念を抱かれない」よう、また、「資質向上等に有効活用」することを強く求めています。しかし、不思議なことに「記」以下の主要な通知事項である研修については一言もふれていません。

次に「記」の「1」において初任者研修及び経験者研修、教育センター(研修所)などでの研修の実施を求めたうえで、「各学校における計画的な研修の実施」「各学校における教材研究、授業研究の実施」「児童生徒の実態等に応じた適切な教育活動の実施」を求めています。要するに、「夏期休業中の勤務日はできるだけ『教材研修デー』『授業研修デー』『生徒たちによる奉仕活動強制デー』などで埋め尽くし『勤務管理』せよ」、「どれだけやったかは後で各学校の日程表等を文科省が直接点検するぞ」と脅しているのです。これは、学校の教育活動に対する不当な介入であり絶対に許されない重大問題です。教育委員会は直ちに通知の撤回を要求すべきです。文科省は「給与上有給」であることを強調することで「いうとおり『勤務管理』しなければ、不正常な勤務であり義務制教員給与に対する1/2国庫負担を見直すぞ」と暗ににおわしていますが、教育委員会がこのような脅しに屈するなどと言うことは絶対にあってはならないことです。

「記」の「2」では、教特法第20条2項に基づく勤務場所を離れての研修について書かれています。ポイントは、

  1. 20条2項に基づく研修は専免研修であり校長の専決事項である、よって、教職員の研修権を保障したものではない
  2. あえて自宅で研修する必要があるか内容をチェックせよ
  3. 計画書や報告書は保護者や地域住民等の理解を十分得られるものにせよというものです。
さすがの文科省も教特法第20条2項に基づく研修を否定するには苦労したようです。文科省が考えたのは、まず校長に長期休業中は「教材研究デー」や「授業研究デー」で埋めたうえで、「その内容はあえて勤務場所を離れて行う必要はない」と言わせる。それでもだめな場合には、「保護者や地域住民」を持ち出し、膨大な研修計画と報告を書かせるなど徹底した嫌がらせをせよとわけです。

文部科学省はなぜこのような「通知」を出したのでしょうか。その背景には、小泉「改革」が進む中で文部科学省の存在理由そのものが問われる事態となっているからです。具体的には、大幅な教育予算の削減、国立大学及び公立学校の民営化、そして、教育への「市場原理」の導入と教育の複線化、「選択の自由」と生徒父母の自己責任の拡大などです。文科省は、財界や政府から「教育条件整備や教育内容の充実をめざす必要はない」といわれているのです。この結果、文科省に残された役割は、社会を維持するために最低必要な基礎基本(基礎学力ではない)の徹底、社会秩序維持のための訓育、そして、教職員管理の徹底です。今回の通知は、小泉「改革」の下で存在意義が薄れるなかで、文科省の特別な役割と文部官僚の自らの権益を維持するために、教職員管理の徹底をアピールしようとしたものといえます。文科省は追いつめられ危機意識を強めおり、なりふり構わず「通知」を強行してくるおそれがあり警戒する必要があります。

私たちは、今回の「通知」を通して文科省が、憲法や教育基本法の理念を実現する上での「障害物」から、すでに、破壊者に変わったことを確認することができます。

4.夏期休業中、大いに自主研修を行い、2学期からの教育活動に役立てましょう

一部の校長は、「公開にたえられるよう毎日A4の用紙1枚の報告書を」などと要求しています。しかし、例えば彫刻家に人間の彫像作成を依頼しておきながら、今日は右手を、明日は右足を、明後日は頭部などをと小出しに作品の一部を提出させて満足する人がいるでしょうか。「1日A4一枚を」といっている校長の行為は、本質的にはこれと同じです。これでは、長期休業中の研修の意義を理解せず、教育活動にいかす意欲もないといわれてもしかたありません。形式だけにこだわり、事実上、研修を妨害するに等しい行為です。 今、県教委と校長に求められていることは、長期休業中に、しっかりと自主研修がとれるよう条件整備を行うことです。具体的には、研修手当の新設、教科図書室の設置を含めた教科準備室の充実、近い将来に教師一人ひとりに研究室を設けることなども緊急で切実な課題です。そして、何よりも重要なことは、研修内容が学校の教育活動に反映されるよう職員会議や学年会議、そして、教科会議の民主的な運営を保障し、自由な研究と協議を通して学校全体の教育力量を高めることではないでしょうか。次に、「公開にたえられるように」「父母、地域住民の疑念」など、教職員と父母、地域住民があたかも対立関係にあるかのような言い方は今すぐ中止すべきです。そして、生徒、父母参加の三者協議会や合同研究会を積極的に開催し生徒や父母の願いや意見を聞くとともに、教職員の研修の成果を還元する機会を設けることを検討すべきではないでしょうか。

様々な困難を抱えた学校教育を改善するために教職員の研修保障は大変重要であることはいうまでもありません。とりわけ、長期休業を利用した教員の研修は、授業、生活指導を含めた学校の教育課程の充実にとって不可欠です。夏季休業中、積極的に自主研修を行い、2学期からの教育活動に大いに役立てていきましょう。


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