文部科学省は、一貫して教育基本法を敵視し、その改悪を追求してきました。しかし、教育基本法改悪を持ち出し、もし、国民の反撃にあって失敗するようなことがあればあまりにも大きな打撃を受けるため、今まで慎重に対応してきました。では、なぜ、今、教育基本法改悪を中央教育審議会に諮問し、正面突破を決断をしたのでしょうか。
90年代まで自民党保守政権は憲法・教育基本法体制と「共存」
高度経済成長期、自民党保守政権は、欧米からの先進技術の導入と優秀で安価な大量の労働力、そして、国家予算を大規模開発に集中投下することで輸出主導型の驚異的な経済成長を実現しました。また、石油ショック後の世界同時不況期には、徹底したリストラ・合理化による集中豪雨的な輸出で、いち早く不況から抜け出しました。
この間の経済成長により実現した「豊かさ」は、金権腐敗体質の自民党保守政権でさえ支えうる「太い柱」となっていました。しかし、同時に、国民は、平和と民主主義、そして、その下で実現した「豊かな生活」を通して日本国憲法を強く支持するようになりました。当時、革新勢力だけでなく多くの国民にとって、日本国憲法、特に憲法第9条を改悪することは、平和と民主主義、そして、手に入れた「豊かな生活」を脅かすものであり理屈抜きに絶対に容認できるものではなかったのです。このような中、自民党保守政権は、憲法や教育基本法の明文改悪に手をつることはできませんでした。彼らは、様々な「解釈」を行うことによって憲法・教育基本法体制と「共存」する道を国民の力によって強いられてきたのです。
憲法・教育基本法をめぐる情勢を劇的に転換させたもの
湾岸戦争を前後し、1990年代にはいると憲法改悪の動きが急速に強まりました。その中でも、1999年の第145回通常国会は一つの画期をなすものです。同国会では、周辺事態法、憲法調査会の設置、国旗・国歌法などが一気に通りました。そして、2000年以降、自民党保守政権は、憲法の明文改憲のための具体的な行動に入ったと考えられす。2000年6月の総選挙で、自民党が初めて「憲法改正」を選挙公約に掲げたのは、その決意の現れといえます(この間の詳しい分析は、岩波ブックレット 「憲法『改正』は何をめざすのか」 渡辺治 などを参照してください)。
1990年代後半、何があったのでしょう。1つは、米国が世界軍事戦略を、ヨーロッパのNATO、アジアの日米安保条約を「米国が戦争を行った場合、自動的に参戦するシステムに変更する」との新方針に転換したことです。第2に、日本政府が、海外で政変などがあった時、海外に進出した日本企業を米国の軍事戦略に基づき守る方針を確立し、自衛隊の海外派兵に踏み切る決断をしたことです。最後に、「市場原理」に基づく福祉切り捨て、民営化の方針が憲法の基本的人権保障の原理と相容れないところまで進んだことです。この結果、自民党保守政権は、「解釈改憲」や憲法9条などの「部分改憲」ではなく、一定の時間はかかっても全面的な憲法改悪に踏み切る決断をしたといえます。今回の教育基本法改悪の動きは、憲法改悪と連動したものであり、教育基本法も全面改悪が狙われていることをしっかりとみておく必要があります。
では、このような世界的規模での情勢の劇的な変化の背景には何があるのでしょう。その背景には、世界史的な規模での資本主義社会の変化があると考えられます。資本主義社会は、17世紀に誕生し、19世紀前半には産業革命を通して産業資本主義を確立し、20世紀初頭には、排他的な植民地支配に基づく独占資本主義の段階に到達しました。そして、1980年代には、世界各地に拠点の持つ多国籍企業段階に到達したと考えられています。米国によるNATOや安保条約の質的な変更、WTOを中心とした新たな世界貿易体制、そして、世界的規模で進んでいる公的部門の民営化などは、多国籍企業段階にふさわしい新たなシステム作りといえます。日本国憲法や教育基本法も多国籍企業段階にふさわしい内容に変えようというのが現在の劇的変化の背景といえます。
憲法・教育基本法体制と共存できなくなった自民党保守政権
1996年、海外での日本企業の生産が日本からの輸出を上まわり、日本は、輸出主導型経済から完全な多国籍企業型経済に移行しました。輸出主導型経済時に形成された6大企業集団では、多国籍企業時代においてはその規模・質において外国企業と太刀打ちできないため現在4大金融グループに再編強化されようとしています。また、多国籍企業化した日本企業は、生き残りをかけ、国内では、もうけの対象となる公的部門の民営化、法人税の引き下げ、大規模なリストラと高コスト体質=終身雇用・年功賃金体制解体、農業・中小商工業への補助金カット、そして、本格的な福祉の切り捨てを強行しています。海外戦略では、米国の世界戦略に基づき自衛隊の海外派兵に必死です。しかし、これらの政策は憲法・教育基本法体制とは全く相容れないものです。現在の自民党保守政権は、憲法・教育基本法体制とは絶対に共存できない存在となったといえます。
さて、このような政策が実行されれば国民の反発が強まることは必至です。そこで、彼らは、新たな理念として「民主主義」「法治主義」「市場主義」を持ち出すことで国民の反発をたくみにかわそうとしています。「民主主義」とは「個の確立」「自己責任原則」、そして、多数決原理による少数派排除の別名です。「法治主義」とは、国家(行政)による国民への権利保障を否定し、自立した個人間で起こるトラブルは「事後的に司法で解決する」との意味です。「市場主義」とは規制緩和、「官から民へ」、そして、競争原理の徹底です。さらに、国民の反対行動には、治安強化で押さえ込む方針です。現在進められている教育基本法改悪もこれらの新たな理念の国民への押しつけと治安強化の側面としての国家主義強化の2側面が色濃く出ているといえます。
私たちの取り組みが、必ず未来への展望をひり開く
1883年、産業資本主義が確立した英国では、1601年に成立した救貧法を改悪し、失業者を「ワークハウス」=「恐怖の家」に収容し、監獄労働を強制しました。独占資本主義が確立した時、日独伊ではファシズムが成立し、労働者に国家的な監獄労働を強制しました。しかし、いずれも労働者、国民の平和と民主主義、そして、基本的人権を求める闘いの前に敗れ去りました。多国籍企業段階の確立期、またしても、国連憲章や日本国憲法の理念を否定し国民への抑圧が強まろうとしています。しかし、人類進歩の道を踏み外す者に未来はありません。今、必要なことは、日本国憲法と教育基本法擁護のための組織的行動です。中核を担うのは、組織労働者=労働組合です。教育基本法を守る取り組みを大いに進めましょう!教育基本法を支持する総ての教職員を仲間に迎えましょう!
兵庫高教組通信No.17 2001年12月1日付より
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